1994年に初代のコンソールが発売されて以来、世界中のゲームユーザーから愛される製品となったPlayStation。PlayStation事業に欠かせないものとしてPlayStation Networkがあります。これはPlayStationから接続できるオンラインネットワークサービスであり、世界中のプレイヤーとのオンライン対戦や協力プレイ、デジタル版のゲーム・追加コンテンツの購入・ダウンロード、他のプレイヤーとのやりとりなどが可能。オンラインの強みを活かした機能を有しています。
PlayStation Networkは世界でも有数のユーザー数やトラフィック規模を誇るネットワークサービスであり、開発・運用に携わるエンジニアの腕が試される環境です。また、自分たちの作ったネットワークサービスを世界中のユーザーに使ってもらえるという、やりがいの大きい仕事でもあります。
今回はPlayStationのハードウェア、ソフトウェアおよびサービスの企画・開発・製造・販売を手掛ける、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの方々にインタビュー。PlayStation Networkにおけるユーザー向けアクティビティサービスのサーバサイド開発のシニアマネージャ―の西海持 雅隆さんとパートナー向けサービスのプロダクトオーナー・チームリードの宗像由さん、パートナー向けサービスのテックリードの半田祐一さん、プッシュ通知やキャッシュ機構のサーバーサイドエンジニアの濱野拓人さんに、プロジェクトの事例や仕事の面白さなどを聞きました。
――ソニー・インタラクティブエンタテインメントの事業の特徴をお話しいただけますか?
西海持:ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、PlayStationのハードウェア・ソフトウェアおよびサービスの企画・開発・製造・販売を手掛けており、現在は2020年にローンチしたPlayStation 5と2024年に発売したPlayStation 5 Proを重点に提供しています。PlayStationのビジネスにはハードウェア、コンテンツ、ネットワークという3つの重要な要素があります。
私たちの部署はネットワークの要素を担当しており、オンラインでのマルチプレイやダウンロードコンテンツなどで付加価値を提供し、新たなユーザー体験を作り出すことが、私たちのビジネスの強みであると考えています。2024年9月30日時点で、PlayStation Networkの月間のアクティブユーザー数は1億1600万人を超えており、相当に規模の大きなネットワークとなっています。
――どのような組織体制で開発を行っていますか?
西海持:私たちの開発拠点は、グローバル各地に展開されています。本社はカリフォルニア州のサンマテオ市にあり、拠点はカリフォルニア州の別の場所とロンドン、東京をはじめ各国にあります。PlayStation Networkのサービス開発は、グローバルなチームで密にコミュニケーションをしながら進めています。
宗像:さまざまな文化・国籍の人が所属していますし、家庭環境もそれぞれ違いますから、すべての人が働きやすいようにダイバーシティ、エクイティおよびインクルージョンの推進にも積極的です。私自身が2児の母なのですが、育児と仕事のバランスを取りながら生活できています。
規模の大きな会社ですと「エンジニアの技術的な裁量があまり無いのでは」と思われる読者もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。たとえば、PlayStationの開発に合わせてアーキテクチャを抜本的に変えたことも過去にはありましたし、サーバーサイド開発だけをやっていたエンジニアがインフラにも携わったりするなど、チャレンジの機会が数多くあります。
――Webメディア「what we use」のインタビューでは、各企業が取り組んできた技術的・組織的な意思決定の事例について語っていただいております。みなさんそれぞれから、エピソードをいただけますか?
半田:先ほど宗像から技術的な裁量の話がありましたので、関連する話をさせてください。私の担当する「サブミッション」というサービスは、ゲームを開発するデベロッパー(ゲーム開発者)の方々からゲームパッケージを受け付けて、ファイルの変換処理を行い、世の中にゲーム発売するという一連の流れを担当します。
かつては、オンプレミスのサーバーを100台規模で抱え、処理に余裕がなくなればさらにサーバーを購入・調達するという運用を行っていました。この運用はサーバーの物理的な管理が非常に大変なので、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のAmazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)が使えるようになったタイミングで、サーバーのクラウド移行を実施しました。ただ、ここでは単に物理サーバーが仮想マシンに置き換わったというだけで、まだまだ改善の余地がありました。
そこで、PlayStation 5がリリースされるタイミングで、クラウドネイティブなアーキテクチャへと刷新することを決めました。アーキテクチャのうち一部分をピックアップして説明しますと、デベロッパーの方々からパッケージを受け付ける箇所はAWS Transferで対応しています。受け取ったパッケージはAmazon Simple Storage Service(Amazon S3)で管理。それらに対してバリデーションやファイル変換などの処理を行うわけですが、そうしたワークフローはAWS StepFunctionsで構築しています。
実際の処理は、規模の小さなものはAWS Lambda、規模の大きなものはAmazon Elastic Kubernetes Service(Amazon EKS)で対応していて、スケールしやすい仕組みです。仮に処理の量が増えても、エンジニアがサーバーを増強するなどの対応をする必要はありません。私はこのプロジェクトに携わる前までは、インフラの構築・運用の経験がなかったものの、そうした領域に携わるチャレンジができました。
――濱野さんからもアーキテクチャ関連の事例をお願いします。
濱野:私たちのチームはキャッシュサーバーの開発・運用に携わっています。PlayStation Networkには1億1600万人の月間アクティブユーザー(2024年9月30日時点)ユーザーがいますから、もし仮にデータベースのマスタデータに毎回アクセスする仕組みにすると、システムの負荷が高くなってしまいます。そこで私たちは、キャッシュサーバーにマスタデータの情報などを蓄積し、キャッシュを返却する仕組みを構築しています。
キャッシュサーバーは歴史のあるサービスであり、もともとはAmazon EC2でAPIを動かし、キャッシュはMemcachedに蓄積していました。ですが、このアーキテクチャですと運用の負担が非常に大きいんですね。そこで去年、アーキテクチャの移設を行いました。Amazon EC2からAmazon EKSに置き換えて、かつキャッシュもMemcachedではなくAmazon ElastiCache for Redisに蓄積する方針を選びました。
これだけだと「ただ採用する技術を入れ替えるだけか」と単純な話に聞こえるかもしれませんが、実はそうではありません。このキャッシュサーバーには、10万rpsを超える規模のアクセスがあります。万が一、移設に際してトラブルが起きると影響が大きいんです。
――10万rps……。一般的なWebサービスの運用ではまず経験できない規模ですね。
濱野:そこで移設前に検証用の環境で本番環境相当の負荷を実際にかけて、問題なくパフォーマンスを発揮できるか負荷試験を行いました。うまく性能が出ない部分については、チーム内外の優秀なエンジニアたちに相談をしたり、サーバー監視サービスで細かくメトリクスを見てパフォーマンスチューニングをしたりして改善を重ね、何十回もの負荷試験を経てようやく十分な性能に達しました。世界中で使われるPlayStation Networkの開発・運用に携わるからこそ、こうした経験を積むことができています。
――宗像さんや西海持さんには、組織運営やプロジェクトマネジメントに関することをお聞きします。
宗像:「サブミッション」サービスの改善についてお話しさせてください。かつて、初代PlayStationやPlayStation 2の時代にはゲームのダウンロード販売は行っておらず、ゲームを開発するデベロッパーの方々からゲームの情報が入ったDVDなどのメディアを郵送してもらい、納品を行っていました。
PlayStation 3になるとデジタル配信を行うPlayStation Storeができて、納品フォーマットもダウンロード用のデジタルデータとディスクといったように種類が増えました。効率的に運用をするために、PlayStation 4ではバラバラだった納品用のパッケージフォーマットを、1つにして提出可能にするプロジェクトを推進したんです。ただ、これでもまだデベロッパーの方々の大変さは軽減されていませんでした。
それはどういうことか説明すると、世の中はグローバル化が進んでおり、PlayStationで遊べるゲームも世界の複数の国で発売されるケースが増えています。過去の「サブミッション」サービスはそれぞれの国・地域ごとにシステムが分かれており、複数の場所でゲームを販売したければそのすべてに納品用のパッケージを作成し、提出する必要がありました。また、国や地域によって法律なども違うので、ゲームそのものの中身を変える必要も生じます。
――かなり煩雑な対応が求められたわけですね。
宗像:そこで、PlayStation 5からは、日本だけではなく世界各国の拠点とも連携を取りながら、運用を効率化できるよう、システムの仕様を考えていきました。
この事例が典型的な例なのですが、私たちは日常的に国内外のメンバーとコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めます。多種多様な人たちと働きたいとか、グローバルで使われるプラットフォームを開発したいという方には、すごく適した環境です。また、ゲームのエンドユーザーだけではなくゲームを開発するデベロッパーの方々にとっても、使い勝手が良くユーザー体験に優れたシステムの提供を目指しているのも、大きな特徴になります。
PlayStation 4では、デベロッパーの方々は3カ国でゲームを販売する場合に3種類のパッケージを作成する必要があったのが、PlayStation 5からはゲーム情報の共通部分と各国の差分をまとめたファイルを1つだけアップロードする、より効率的な仕組みになりました。
――西海持さんはいかがでしょうか?
西海持:PlayStation 5のホーム画面でコントローラーのPSボタンを1回押すと、画面の下にメニューが表示されます。これはコントロールセンターという機能なのですが、このなかにユーザーがどのような行動を取れるかを示すアクションカードがあります。PlayStation 5のリリース前の段階で「PlayStation Networkでイベントが発生してから、アクションカードに反映されるまでの速度を速くしたい」という要望が、社内で挙がりました。
目標となった時間は具体的な数字はお伝えできないのですが、ユーザーの快適さを実現するために野心的な数字を目標値としています。この数値を改善するのはかなり大変でして、なぜならアクションカードへの反映までに複数のチームのシステムが関与しているからなんです。
イベントを発行するシステムや、それをリソースに反映するシステム、そのイベントを誰に届けるかを判定するシステム、プッシュ通知によってユーザーに情報を知らせるシステム、実際にユーザーのアクションカードに情報を届けるシステムなどがあり、それらを別々のチームが開発・運用しています。
このプロジェクトにおいてソニー・インタラクティブエンタテインメントの強さを感じたのが、それぞれのチームが自己組織化されているということです。アーキテクトが実現したい目標について共有し、方針策定をしたところ、特定のメンバーだけではなくみんながオーナーシップを持って「このような方法があるのではないか」というアイデアを提案し、改善を続け、最終的には無事に目標数値を達成できました。
――ソニー・インタラクティブエンタテインメントでは、サーバーサイドエンジニアを積極的に採用していると伺っています。優秀なエンジニアにとって、PlayStation Networkの開発・運用に携わる面白さはどのような点にあるでしょうか?
濱野:今回の事例でもインパクトのある数字がいくつか出てきましたが、これほど規模の大きなデータやトラフィックを扱える会社はあまり多くはありません。それから私が入社して感じたのは、これはエンターテインメントの会社であることも影響しているかもしれませんが、優秀かつフレンドリーな方が多いということです。困ったときはみんなでアイデアを出し合うので、チーム全体で成長して成果を出す文化が醸成されています。
西海持:システム開発だけではなく、ビジネス環境の変化もすごく速いです。変化を受け入れて、それを楽しめる人にとってはすごくおすすめです。また、自分のやった仕事が真の意味で世界中にインパクトを与えられるのは貴重な体験ですね。そして私にとって何より大切なポイントは、妻もゲームが好きなので、私たちが何かを作るとそれを家族に喜んでもらえるということです。
――ソニー・インタラクティブエンタテインメントならではの魅力がたくさんありますね。では最後に、御社への応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
半田:新しい技術を積極的に取り入れて、自分たちのサービスをさらに改善しようという思いを持ったエンジニアたちが働いています。優秀で向上心を持った方と、一緒に働いて成長していきたいです。
宗像:この会社ではフルスタックな開発が経験できますし、先ほどの話にもあったようにグローバルで密に連携を取りながらものづくりができます。私もそうであるように、多種多様なライフスタイルの方が働きやすい環境がありますし、各々の意見が重視される文化も魅力的です。
濱野:PlayStation Networkのように、世界規模で使われるネットワークサービスの開発は非常に面白いです。自分の携わった仕事が世の中に影響を与えていると実感できるので、興味を持たれた方はぜひ応募してみてください。
西海持:みなさんが言ってくれたように、この会社だからこその魅力があり、そこに共感していただける方と一緒に働きたいです。エンジニアとしてチャレンジしたいこと、今後のキャリアで実現したいことがあるならば、ぜひ力を発揮する場所としてソニー・インタラクティブエンタテインメントを選んでください。
取材・執筆:中薗昴
撮影:山辺恵美子
提供:株式会社Haul
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの技術スタックをチェック
無料で技術スタックを掲載する
このページをシェア
技術スタック・ツールのデータベースサービス
© 2025 Haul inc.
技術スタック・ツールのデータベースサービス
© 2025 Haul inc.